きっと、月が綺麗な夜に。
猫と音
少女が目覚めたのは、僕が千明と貴人を家へ送って、再び帰って来てすぐのことだった。
少女のために蚊帳を組み立て、客間の大扉を開き風通しを良くし、休憩がてら大扉の向こうの縁側に腰掛け、庭に香箱座りで居座るクロミをぼんやりと眺める。
「おまえ、この子が心配なの?」
「なーお」
まるで僕の言葉全てが通じているんじゃないかと思うくらいの絶妙な返事をしてとことこ、と僕の隣に寄ってきてまた香箱座りをしたクロミ。
足に巻かれていたスカーフは首へと結び直されており、その代わり、足には包帯が巻かれていたため、あのスカーフがきっと少女が怪我をしたクロミを応急処置したものだったんだ、と推測出来た。
「賢いな、おまえ。怪我してたのに、助けたかったから頑張ったな」
そう言って顎先を恐る恐る撫でると、いつもはぴょい、と逃げ出すクロミが素直に僕に体を委ね、喉を鳴らし目で放物線を描く。
そうしていると、背後からばさ、と派手に布が舞うような音が響いた。
「なおん!」とさっきより1トーン高いクロミの鳴き声を耳に、素早く振り返ると、きらり、と月の光に反射して光る2つの玉と僕の瞳のピントがかち合う。
それが少女の瞳だと気づくのに数秒要す。何故だか、その瞳が小さい頃母に与えられた宝物にしていたビー玉に、見えた気がしたから。