きっと、月が綺麗な夜に。
数秒の沈黙。ハッと我に返ってそっと声を発する。


「あの……だい、じょうぶ?君、灯台のとこで寝てて、それで、クロミが案内してくれて」


僕の少し間抜けなかすれた声が空間をふわふわと舞うより早いスピードで、軽やかに、クロミが少女の傍へと駆け寄った。

少女の膝にころんと納まり、さっきとは比じゃないくらい喉を鳴らし始めたクロミは、今まで僕が知っていたあのツンデレ猫と同じ猫なのか疑ってしまう。

まだ起きたばかりで頭が覚醒してないのか、ほわほわとした表情の少女は状況を理解しきれずそのビー玉みたいなまん丸な瞳を瞬きでパタパタと出したり、隠したり。


「お!嬢ちゃん起きたか!風呂にする?飯にする?」


この空気どうしよう、と二言目に困っていた僕にとってはばっちりのタイミングで、多分、勢いよく起き上がった彼女がひっくり返した掛け布団が舞って襖にぶつかった音を感じてやって来たりょーちゃんが、まるで新婚の嫁のような言葉を躊躇いもなく発した。


「……お腹、減った」


ずっと眠りこくっていて、初めて聞いた少女の声。それはクロミに似た、抑揚のない、女しては高くない、トゲのないそんな声。
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