きっと、月が綺麗な夜に。
りょーちゃんに手を離されて宙ぶらりんになった小さな手をおずおずと膝の上に引っ込めると、再び大きくも小さくも、高くも低くもないその声で話し始める美矢。


「えっと、あたし、昨日の夜に何となく船でここに来て……観光っていうよりは放浪?が正しいのかな。今年高校出てたばっか……す」


多分敬語を上手く使えないのだろう、最後におまけのように小さく『す』と付けたのに笑いそうになるが、その言葉の意味を考えぎょっとした。


「待って、つまり、君は昨日の夜からあそこに野宿してたってこと?未成年の、君みたいな女の子が?」

「はあ、まあ、なんとなく来たはいいけど宿埋まってて素泊まり出来なくて。どーしようか考えてたらあの子が灯台のとこで怪我した足舐めてたから、とりあえず持ってたアルコールジェルとかスカーフで消毒したげて、みたいな」



何て子だ。落ち着いてるのか、それともぼんやりしてるのか分からないけど、まず知らぬ土地にふらりとやって来て宿に素泊まり出来なかったからって野宿するなんて。

クロミももしかしたら、美矢のことは人間というより同じ猫だと思ったのかもしれない。

その生き方は正に猫だ。このふらりとした感じも、ゆるりとした喋り方すらも。
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