きっと、月が綺麗な夜に。
「親御さんとか大丈夫なのか?今この島にいることとか、色々」


だいたい全てのことを笑い飛ばしてしまうりょーちゃんでさえ、この自由に生きる野良猫みたいな少女に眉を下げ、心配の色を滲ませる。


「ああ、それは。あたし、天涯孤独、っていうのかな。家族、いないんで。帰る場所?的なものもまあないし、だいじょぶ、す」


その心配に対しても変わらずひらりゆらりと答えた美矢は、悲しそうでも苦しそうでもなく、まるで日常会話のようにそれを告げた。

その態度がまるで、僕が『あの日』を引きずり続けて、心のどこかであの人をまだ待っているのが馬鹿みたいに思えるようで、僕の中のあの日から膝を抱えて泣いている小さな僕が泣き出しそうになる。


もう答えることは無くなったと言わんばかりに会話を止めて再び残りの天ぷらに手を付け出した美矢の姿は、やっぱり猫そのもの。

そんな美矢と、美矢の言葉に少し曇った僕の顔を見比べ低く小さく唸ったりょーちゃんは、突然、その大きな掌をぼふ、と美矢に、そして僕の頭に乗せた。
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