きっと、月が綺麗な夜に。
ああ、この人が次に何を言うかなんて、分かりきっている。


「じゃあここにいるといいさ!美矢の好きなだけな。とらも、文句はないよな?」


ほらね。6歳の僕にかけた無条件の優しさを、この人はいつだって失わない。変わらない。まっすぐ、ニコニコと笑う姿に曇りが晴れる。


「いいん、す、か?」

「あたぼーよ!その代わり、ここにいる間は家族だ!それは約束だ」


まるであの時の僕に戻ったみたいだ。あの時感じた温かさとか、ご飯の美味しさが鮮明に蘇る。

美矢は僕のように、置かれた自分の環境とか状況に悲観的じゃないように見えるけれど、りょーちゃんの優しさを温かく感じるのは一緒だろう。


「じゃあ、しばらく、お世話になります。……りょー、ちゃん?ぱぱ?」

「はは!りょーちゃんで良いよ!俺もまだ39歳未婚だから、ぱぱ、はちーとばかし、照れる」


りょーちゃんの返しに少しばかり違和感があったのだろう、小さく首を傾けた美矢だったが、その違和感を何か問うでもなく、小さな掌をやんわり合掌する。


「ごちそうさま、でした」


僕の3食分くらいをぺろりと平らげた美矢の皿は、ご飯1粒さえ残らない、それはそれは綺麗な完食だった。
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