きっと、月が綺麗な夜に。
ファンタジーな昨夜の出来事が本当にファンタジーだったんじゃないかと思うくらいいつも通りの朝がやって来る。
部屋を出て庭のりょーちゃんお気に入りのピーマンの自家栽培に水やりをしようと外に出ると、昨日のことが夢じゃなかったというかのように、短い毛並みを黒々と光らせた先客がすでにそこにいた。
「クロミ、おはよ。おまえも、うちの子になったのか?」
なおん、と短く返事した黒猫のクロミは、すっかり人嫌いだということを忘れさせるように香箱座りでくああ、とあくびをひとつ、空に向かってかました。
今日から二学期まであと2週間。僕の、有給消化という名の短い夏休みが始まる。
同じくその夏休みが始まった武明先生と今日は釣りに出かける約束をしているから、朝ごはんを食べて着替えたら、すぐに迎えにいかなければ。
もちろん、昨夜のファンタジーを土産話に。
あの人のことだ。振り切ったオーバーリアクションが期待できるだろう。やかましいが僕には真似できないあの顔の筋肉という筋肉を使ったリアクションへの期待値は、かなり高い。