きっと、月が綺麗な夜に。
「ねえ、あのさ、聞きたいこと、あるんだけど」

「ん?どうしたの?」


ピーマンの水やりを終え、縁側の方へと戻って来た僕に、美矢が目が覚めたのか覚めてないのかちっとも分からないゆったりとした口調で話しかけてくる。


「あたしが寝てた部屋にあったギター、マーチンのアコギ。あれ、とらかりょーちゃんの?ヴィンテージもので価値のあるいいギターなうえに、状態めちゃくちゃ良いじゃん」


そう言って美矢が指差したのは、自身がさっきまで寝ていた客間の、日の当たらない場所の壁にかけてある1本のギター。
あれがどのメーカーで、どんな値打ちで、状態か分かるってことは弾ける人なのかな。俗世のものに興味なさそうな感じなのに、意外だな。


「ああ、あれ、どっちのでもないんだ。僕の生みの父の。ずいぶん前に亡くなったんだけどね。そんなにいいやつなんだ」

「ふーん。でも定期的にメンテナンスされてるっぽいけど、弾けるの?」

「……いや、弾けないよ」


僕の短い返答にもう一度「ふーん」とだけ返した美矢の、あのビー玉みたいな濁りのない瞳に焦点を定められてちくん、と心臓の血管に針が通ったような痛みを伴う。

この純粋な瞳に、今でも鮮明に覚えている幼少期のこととか、ついた小さな嘘とか、全て、見抜かれている気がしたから。
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