きっと、月が綺麗な夜に。
かわりばえ
美矢と共に食卓へ向かうと、号泣しながら姿勢良く座っているフリフリエプロンの飯炊きおじさん、じゃなくてりょーちゃん。
多分、聴こえていたのだろう。美矢の歌が。単純に感動したのか。それとも、りょーちゃんも学生の頃に聴いたことがあるであろう父の歌声を思い出したのだろうか。
「青少年たちよ、さあ、食え!もりもりと!」
「え、食べるけど、何?情緒不安定なの?いつもこうなの?ねえ、とら」
「君の歌に感動してるんでしょ、多分ね」
感情の起伏が薄そうな美矢からしてみれば、自分が歌ったことによってこんなに轟々と泣く人間は未知なのだろう。その目が点になっているような顔とりょーちゃんの泣き顔を見比べて堪えきれず笑いながら、食卓へとつく。
「いただきますっ」
新鮮な野菜で作られたりょーちゃん手製のおしんこう、僕好みに固めに炊かれた粒立つ白米、綺麗に巻かれたふわふわの卵焼き、紫蘇ダレで彩られた大粒納豆に、地元の海で取れた魚で作られた焼き魚、近所のじいちゃん自家製の味噌の香りが立つ味噌汁。
素朴で、だけど極上のフルコースと命に感謝して、今日1日が本格的に動き出す。