きっと、月が綺麗な夜に。
知らない土地にふらりと、しかもノープランで来て野宿をするという奇抜なことをしでかした人間だが、こんな生白い、小柄で筋肉も皆無な少女がアウトドアという思想を基本搭載しているわけもなく、美矢はしぶしぶ、といった表情で僕の隣をとことことついてくる。
僕の家から漁船場までは徒歩で10分かからない場所にあり、漁船場に近くに連れ、猫たちに癒されに観光に来た客のために民宿や食事処、住宅地もだいたい島の港側に密集している。
つまりこの島ではだいたい皆ご近所さん、ということになるだろう。
今日は武明先生の提案での海釣りだからか、武明先生は漁船場に、民宿から船や釣竿をチャーターして待っているらしい。
この島も、この夏のシーズンになると賑やかだ。そこらじゅうでいつもと変わらずくつろぐ猫たちを一心不乱にスマートフォンや一眼レフに収めている者たちで溢れ返っている。
美矢はそういった現代的な場所からは遠いところにいるようだ。
まるで今までもこの島に住んでいてんじゃないかと思うくらい落ち着き払っているし、それどころか、道行く猫たちが彼女に挨拶しにくるように足元に鼻を寄せ、匂いを嗅ぎ回って行くのだ。