きっと、月が綺麗な夜に。
「何言ってるんですか、武明先生。クロミですよ。クロミは人に化けることが出来るんです」


僕の返答に武明先生は僕と美矢を忙しなく見比べてる。美矢は美矢で、ぎょっとした顔で僕のTシャツの背中をぎゅ、と握った。


「あの日の帰りに僕、クロミに会ったんですよ、昨日の話と同じように鳴き声上げてきて、灯台に案内されて。そしたら、その灯台でこの姿に。怪我した時に治療してくれた人に恩返しする為に協力して欲しいんだとか」


こんな嘘話がつらつら出てくるのは、まあ全てが嘘じゃないからだ。クロミに会ったこととか、灯台に案内されたこととか、怪我を治療してくれた美矢に懐いて恩返ししたこととか。

僕が話し始めてからというものずっと僕の顔と美矢の顔を見比べ続けて首を痛めそうな武明先生に笑いを必死に堪えながら真顔を決め込み、真実を述べている空気感を醸し出す。


美矢はというと、呆れて物が言えないのかそのまん丸のビー玉みたいな瞳の上にまつ毛をフサフサとはためかせているだけだ。
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