きっと、月が綺麗な夜に。
武明先生は唇をわなわな震わせて、美矢の方へ一歩、また一歩と躙り寄る。美矢は自分より1.5倍は大きい生き物に完全に怯え、まるで子猫が威嚇して毛を立たせているかのようにも見える。


「そうか、クロミ、クロミなのか、おまえ」


完全に僕のほら話を信じ切った武明先生は泣きそうな声でそう呟いたかと思ったら、次の瞬間、美矢のその小さな体を持ち上げるように抱きしめた。


「んな……!離して、ちがっ」

「人嫌いだと思っていたが実は恩情深い猫だったんだな、おまえ!俺もその人を見つけるの協力するぞ!わはは!」


足が地面から離れきった美矢はバタバタとその足をバタつかせ抵抗するも、体格も声の大きさも全然叶わないせいか、武明先生に1ミリたりとも意思が伝わらずますます困惑している。

普段から武明先生に、そして、昨日からは美矢にすっかり自分のペースを乱されていた僕は仕返しの結果があまりにも面白い方向に向かい、ついには我慢できず笑い始めてしまった。


「とらっ……せ、責任、とって!」


でかく力強い体の中に閉じ込められた美矢は、足だけ諦めずバタつかせ、笑いが止まらなくなった僕に短く、助けを求めた。
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