きっと、月が綺麗な夜に。


「いや、すまなかったなみゃあ子くん!それより酷いぞとらちぃ!嘘にしてはリアルじゃないか!」

「いや、どこがリアルだったの?ってかみゃあ子くんって何?あたし、美矢だから、み、や」


漁船の上、海も空も青くて、全てがクリアな青の世界に包まれたこの空間で、あのマイペースな美矢ですら、武明先生の前ではツッコミに回るという新事実。

二人の会話が面白くて笑いっぱなしだから、明日は頬の筋肉痛に悩まされてしまいそうだ。


「ちょっと、とらのせいでこうなったんだから何とかしてよ」

「ふは……!ごめん、この人は止められないかな。変なあだ名も諦めて」


僕だって『とらちぃ』なんて変な呼ばれ方を初めて出会った中学生の時からずっとされ続けているんだ、慣れてもらう他ない。

完全に自分のペースを狂わされた美矢は、不機嫌というのとは違う、何だか居心地の悪そうな顔でむ、と小さな口を結んだ何とも言えない表情になった。

美矢の言う通り、僕のあんなほら話を100パーセント信じる人なんて武明先生の他にいないだろうけど、美矢は本当は人間じゃなくて猫が化けた姿だというのは、もしかしたら全く信じ難いことでもないと僕も思える。
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