きっと、月が綺麗な夜に。
校長と朝の穏やかな会話を済ませ、僕は職員室の自分の席へ座ると、今日済ませなければならないことへ目を通す。夏休みと言っても教師には仕事がたくさんある。


「ああ……運動会の小道具のチェックと作成か。体育倉庫暑いんだよなぁ」

「武明先生、僕だって気持ちは同じなのでぼやかないでくれますか?」


僕の頭上でやんわりぼやいたのは、この学校では僕の次に若手教諭の武明先生。


僕が中学生に上がった時に確か赴任してきた人だから、ちょうど干支一周するかしないかくらい歳の差があるわけだが、この島はなんせ人口400人も満たない高齢者島。武明先生でもだいぶ若手の方だ。


この島には歳上の、島の医者として赴任した奥さんと共にやって来たんだったと思う。その奥さんがべらぼうに綺麗だと、当時大人達が騒いでいたっけ。


「かーっ!とらちぃは冷めてるねぇ!高校大学で本土に行って都会っ子になたのかね?」

「いや、昔からこんなもんですから。ってか、武明先生出身東京でしょ?よっぽど都会っ子じゃないですか」


僕の無気力な返答に対してもわはは、と外の太陽みたいに笑う武明先生は、昔から変わらない。こういう人が教師には向いているのかもしれない。
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