きっと、月が綺麗な夜に。
美矢がごくん、と唾を呑んだ音が聞こえた。そして、ゆっくりと僕の腕を解き、自分の釣った真鯛へと歩を寄せる。


「偉いぞみゃあ子くん。さあ、このボックスの中へそいつを入れるんだ」


頭上高くから優しく降り注ぐ武明先生の方を見上げ、うん、と首を緩く上下させた美矢は、未だ動き回る真鯛のしっぽをぐっと掴み、持ち上げた。


「……うええ、きもちわりぃ」


ボソリと呟いた美矢はピュン、と水を張られたボックスの中へ真鯛を投げ入れ、合掌する。


「あたしが責任持って美味しく頂くことを約束する……でもやっぱ、かなり、きもい」


心底真面目に呟かれたその言葉たちに、僕と武明先生は顔を見合わせ、そして笑い出してしまう。


「ちょっと、何笑っちゃってんの?」


ずっとペースが狂いっぱなしの美矢は、そんな僕たちに抑揚のない声で、めいっぱい不満を訴えた。

純粋で、生まれてきた場所とは全く違う環境での未知との遭遇にどんどん新しい顔を見せてくれる美矢に、僕は目が離せない。

波打つ心臓の音はさっきよりずっと穏やかだけれど、何だか、美矢が目の前に現れてからずっと、不思議と温かい。
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