きっと、月が綺麗な夜に。
「今日は何を買うの?」


「んー、服とか、ギターの弦とか……あと、色々?」


あまり喋るのは得意な方ではなさそうな美矢だけど、僕が話しかければ肩肘張らずに答えてくれるのが結構嬉しい。

僕も比較的コミュニケーション能力が高いほうではないのだけれど、美矢との時間は苦ではない。
島時間にすっかり馴染んだ僕にとって、気性が緩く動きもゆったりとした美矢の纏う空気というか、時間の流れが心地よさすら感じる。


「なに?遠い目であたしのこと見て」

「別に……いや、君を見てたらクロミに首輪買ってあげたいなって思って」

「だから、あたしは猫の擬人化じゃないっての。あたしでクロミ思い出すなし」


ぽこ、とまるで痛みのない肩パンを食らわす美矢のそれはやはり猫パンチにしか見えなくて、その小さな口をへの地にして閉じた顔もやはり子猫のようで、乏しいけど無いわけではない彼女の新しい表情を見れて、思わずコロコロと喉を鳴らして笑ってしまう。

小首を傾げた美矢は、真ん丸なつり目をくにゃりと弧の形にして細めた。


「へえ、笑うとそんな声出るんだ。何か、癒される」


新しい表情を見つけるのが楽しいのは美矢も同じらしい。僕達は何か、少し似ている。
< 44 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop