きっと、月が綺麗な夜に。
あまり気分が優れない僕の代わりに美矢がレンタカーのハンドルを握り、家路を鼻歌混じりに進んで行く。
「オートマって高速道路の教習でしか運転したことないんだよね。簡単過ぎて逆に怖い」
「ギア車運転出来るの?かっこいいね」
「デショ。あたし、あの自分で操作してるーって感じが良くてさ。あと免許証に限定って付くのイカしてない気がして」
ファッションにこだわりがあって、音楽の奏で方にこだわりがあって、そんな美矢だからなんだか車もこだわりがあるのは納得出来る気がする。
「体調落ち着いた?あんた体ほっそいから暑いの強くなさそうだし無理しない方がいいよ。暑いのにいつも7部丈のインナー着てるしさ。こだわりか知んないけど涼しい格好しなよ」
運転しながらだからちっとも目が合わない美矢だけど、ぶっきらぼうなりに僕に円みを帯びたトーンで言葉を紡ぐ。
「……そう、だね。ごめんね」
だけど、これだけは脱げないんだ。心配してくれて有り難いけど、絶対に。