きっと、月が綺麗な夜に。
そんな僕達のやり取りを、キッチンで手洗いうがいを済ませた美矢が眺めているのを感じた。それこそ猫のような、あの強い眼差しで。

灰色がかった色素の薄い、ビー玉みたいな三白眼の視線だけは、美矢の持っているものの中で苦手なものかもしれない。

汚いものを全て見透かされている気がして、その眼光に僕の全てがさらけ出されてしまうような気がして。


居心地の良くない空気が漂う中、その空気とは合わないチャカチャカ、という軽快な物音がフローリングに響いた。
「んなぁ」と鳴いたそれは、この数日ですっかりうちに居着いた新しい家族のものだった。


「ん?クロミもご飯?」


美矢の鋭い眼光は逸れ、代わりにその小さな体をさらに屈めて顔を寄せた先にいるクロミは、ご飯という言葉に反応してまた鼻にかかるような声で鳴く。


「いやあ賢いなあクロミは。人間のご飯の匂いで自分のご飯も察知出来るんだもんな」


嬉しそうにニコニコ笑ったりょーちゃんは、カリカリにこの間僕が釣った鯛を細かく切ってトッピングしたクロミ専用の晩御飯を目の前に差し出した。
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