きっと、月が綺麗な夜に。
その提案は現地に行って気が合えば多分通る提案だから、食事と支度を済ませた僕は、自転車を押しながら職場である学校へ向かうことに。
もちろん、美矢と一緒に。

人数の少ない島の学校だから、登校は上級生の指導で全員一緒なもんで、学校までの道のりには猫たちと、早起きのジジババくらいなもんだ。

子供たちばかりか、島のジジババからもすっかりアイドル扱いの美矢は『みゃあちゃん』なんて呼ばれて挨拶されたらちゃんと立ち止まって、ひとりひとりと一言二言挨拶を交わしている。

何が凄いって、美矢は、声をかけてくるジジババ全員ちゃんと名前で呼んで挨拶して「暑いね」とか「朝ごはん食べた?」とかいう類の世間話を織り交ぜているのだ。

おじいさんに育てられたようなことを言っていたから老人は嫌いじゃないだろうけど、高齢化が進んだこの島でたった2週間で一体何人の名前を覚えたのだろう。


「君、この島のジジババどれくらい顔と名前認知してんの?」

「え?知らんけど、たけちゃんに挨拶回り連れ回されて話した人とその友達くらいじゃね?」


さらっと言ってのけた美矢だけど、もしや島のジジババ網羅してるんじゃ、なんて思い、彼女はことの他頭が良く、また、コミュニケーション能力が高いことに感心してしまった。
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