きっと、月が綺麗な夜に。

誰もいない食卓の奥では、つけっぱなしのテレビから、ニュースの音がたれ流されている。


<<非常に大きな勢力を持った台風11号は……>>

ああ、嫌だな、鬱だ。大きな台風が今年もまた、やって来ている。

明日は多分、朝から会議で台風の対策についての話し合いが行われるだろう。

せっかく新学期が始まったばかりだと言うのに、楽しそうに投稿していた子供たちや、夢を見据えたケンゴの時間を、そうやって奪わないで欲しい。

何より、台風と共に『あの日』のトラウマも、きっとまた僕に強く降り注ぐ。


じくじくと右腕が痛みだし、熱を持つような感覚。半袖から出た白いインナーごと掌で強く肘から上を握り込むと、熱を、少しだけ掌が吸ってくれる気がした。

もうすぐ『あの日』から20年も経つのに、その月日が、傷を癒してくれることはない。


降りしきる雨の音が嫌いだ。匂いが嫌いだ。
色んなものを流し溶かすくせに、染み付いたヘドロのような感情を、未だに洗い流してくれやしない。