きっと、月が綺麗な夜に。
「困ったな。もう立派に女の子だ。成長著しいなあ」

「わはは、とらちぃたじたじじゃないか!しかし、千明の言ったことは本当だぞ!みゃあ子くんは漁師連中にも、役所の若い独身のにも、大層気に入られていたからな!」


いつから後ろにいたのか、いつも通り日差しの強い太陽が燦々と照りつけるような大声で武明先生が声をかけてくる。

そういえば、挨拶回りついでにと役場の出張所に住民票を移しに行った日があったっけ。


「別に……美矢は僕の何でもないんです。彼女の人生なんだから、好きな人が出来たら好きにすればいいじゃないですか」


自分で言った言葉が、心臓に針をさして痛ませ、喉の空気が上手く抜けなくて息が詰まる。

痛みも、詰まりも、感じる資格なんてないだろう。でも、僕にとって美矢ってなんなんだろう。逆に、彼女にとっての僕って……。


「素直じゃないとらちぃは可愛くないぞ!」

「あのね武明先生、僕もう25歳。可愛くない年齢ですからね」

「わはは、十分可愛い歳じゃないか!」


結局いつも通りの空気感。僕と武明先生は他愛もない会話をしつつ、空いてるケンゴの席の方へと足を運んだ。
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