きっと、月が綺麗な夜に。
「デリカシーないたけちゃんも、その贅沢が特別だとも思ってないこじろうも嫌い!」


完全に拗ねモードに入ってしまったケンゴは、もう口聞かないです、という雰囲気をぷんぷん漂わせ、黙々と給食を食べ始める。


「あーあ、武明先生が怒らせたー」


緩やかに武明先生へと話を振ったが、当の本人は何故ケンゴの機嫌を損ねたかなんて多分一生解決しなさそうな顔をしている。

この人よく結婚出来たなって思うけど、そういえば昔、先生の奥さん、つまり、島の診療所のお医者さんである彼女が言ってたことを思い出す。
『全部含めて可愛いな、愛おしいなって思っちゃったのよ、悔しいことにね』という、惚気にも似た一言を。


「どこが可愛くて愛おしいんだか。嫌いじゃないですけど」

「なんだとらちぃ急に?」

「別に。惚気話思い出して胸焼けしただけです」


でも、奥さんが言ってた言葉、感情が、ちっとも分からないわけではない。

マイペースで、気分屋で、協調性のないあの黒猫の擬人化の少女の全てが……少なくともひとつも不愉快ではないし、何だか、目が離せないから。


僕の場合は別に、恋だ愛だとかじゃないんだけれど。
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