きっと、月が綺麗な夜に。
酷い雨の日、必ずと言っていいほど見る夢は、僕の過去が波のように断片的に襲いかかる嫌なもの。

だけど今日は、様子が少し違う。
いつもは幼い僕になって体感するような悪夢なのに、今日は『これは夢だ』と分かっていて、映画のように外から過去を眺めているのだ。

父が小学校に入ってすぐに急病で死に、元々僕にはあまり関心の無かった母が、無関心から煩わしさへと感情を変えたあの頃。

幼い頃から父にギターを習い、共に歌っていた僕は父の忘れ形見のギターで弾き語ることだけが生きがいだった。

そんな僕の髪を後ろから激しく引っ張り歌うことを止めさせた母が、ヒステリックに僕に叫ぶ。


「その音をあんたから聴きたくない!それは私が愛したあの人の音よ!あんたの歌を聴きたくない!殺したくなる!」


自分の血の繋がった息子に対して言う言葉じゃないと、外から見てると嫌になる。母にとって、僕は所詮愛する父と自分を繋ぎ止めるものでしかなかったのだ。

あの日から、誰かの前でギターを弾いたり歌うことが出来なくなったんだっけ。

けれど、父の忘れ形見をこのままにしたくなくて、家を不在がちの母の目を盗んではギターを弾いていた。

それは、りょーちゃんと養子縁組してから今まで変わらなかった。りょーちゃんがいない時、一人の時だけ、こっそり、僕はギターで弾き語る。
< 99 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop