一匹狼くん、 拾いました。弐

「ミカ」

 仁に声をかけられ、俺は顔を上げた。仁の隣には、結賀に廉と伊織。それに葵もいる。

「大丈夫か?」

 仁が俺の顔をのぞきこむ。

「悪い、一人にしてくれるか」

「ミカ、俺にはそれ、一人にすんなって意味に聞こえんだけど」

「……なんで」

「気づいてないのか? お前、すっごいつらそうな顔してるぞ」

 眉間にシワを寄せて、仁は俺の顔を覗き込む。

「……別にいいんだよ。親父が俺を道具扱いしてたのなんて。五歳の時からそうだし、今更それが辛いとか、慣れすぎて全然思わないし。

……でもさ、さすがに、偽装は無いと思って」

 仁から目を逸らし、顔を伏せながら俺は言う。

「……親父が俺を従順な犬にするために楓を殺すならまだ分かったんだ。

でも、楓を殺さないのは正直訳わかんなくて。


……親父はあの日、俺を殺すつもりだったと思うんだ。あるいは、俺を意志を持たない人形みたいな奴にするために、死にかけさせたんだと思う。親父にとって俺は道具だから。


 でも、楓はあの日生かされたんだよ!それは車が止まったからじゃなくて、親父が生かしてもいいって考えたんだ!

 赤の他人のあいつは殺さなくていいって、傷つけなくていいって考えたのに、俺のことは従順な犬になるまで、死にかけるまで痛めつけていいって、そう判断したんだよ!!


 この差ってなんなんだ? 血が繋がってんのに、俺は他人以下か?


 五歳の時ゴミ以下って言われて、そん時はその意味をまるでわかってなかったよ。

 怒ってる親父の言うことを聞くのに必死で。

 俺、そう言われたことずっと忘れてたんだ。……考えないようにしてたんだ。自分が代わりのきく道具なんだって、愛想つかされたら捨てられるんだってこと。

 でも、今日死体の偽装したって聞いて、自分が他人どころか、ゴミ以下だと思われてんのすごい実感して、辛くて」

 「ミカ、……お前は、立花に嫉妬してるのか?」



< 13 / 215 >

この作品をシェア

pagetop