一匹狼くん、 拾いました。弐
その夢は誰のため。
仁side
「仁くん、ありがとう。これ、お駄賃」
ミカのお母さんがそんなことを言って、ポケットから五千円札を取り出す。
「え、いいですよそんな」
「受け取って。本当に、すごく助かったから。仁くん、高校生とは思えないくらい料理上手くて、本当にびっくりしちゃった!」
早口で、興奮した様子でミカのお母さんは言う。
「……ありがとうございます」
おずおずと五千円札を受取る。
「いつも料理してるの?」
「……はい。料理はいつもしてます」
あ、思わずはって付けてしまった。
「料理は?」
「……いつも料理してます」
慌てて言い直すが、時すでに遅し。
「スイーツ作りは、いつもはしてない?」
「してないというか……できないです。スイーツは、さっきみたいに誰かに背中押してもらったりしないと、作れないです」
ミカのお母さんにしか聞こえないくらいの声量で言う。
俺と結賀のやり取りを見ていたからか、ミカのお母さんはその言葉を聞いて納得したように頷いた。
「そういうことだったんだ」
「…………はい。だから、スイーツは本当に実力不足で、……まだパティシエの卵にすらなれてないです」
「でも君はレストランのシェフとかじゃなくて、パティシエになりたいんでしょう?」
ドキッ。心臓を叩かれたかのような衝撃が、俺を襲う。
「お、俺は……」