一匹狼くん、 拾いました。弐
「あんなのなんて言うな。……君は美味いんだよ。君が作るスイーツはすごく美味しい。ただ、あのスイーツは全然心が籠ってない」
ドキッと、心臓をえぐられるみたいな錯覚に陥る。
「君は美味しいスイーツを作ろうとはしているけど、人をもてなそうとは全然してないだろ。そんなんだから、レシピ通りの料理しか作れないんじゃないか?」
図星だった。本当にぐうの音も出ない。
「……まぁ、人に期待してない人が、人を持て成す料理を作れるわけないですよね」
「仁くん、別にみんながみんな君のお母さんみたいに意地悪なわけじゃないんだよ。君はもう少し、誰かを頼りにした方がいい」
「ミカと結賀のことは頼りにしてますよ」
「あの二人だけじゃダメだ。……友達は選んでいい。友達は広く浅く作るよりは、少なくても深く作った方がいい。でも君は、まだ16歳なんだ。きっとこれからたくさんの人と出会うだろう。その中には君のお母さんみたいな人も確かにいるかもしれない。でもミカや結賀くんみたいに、君を心の底から大切に思ってくれる人だって沢山いるハズだ。君はそういう人を、全員信頼しないつもりか?」
「……信頼して、傷つくのは自分なので」
ミカのお父さんはあからさまに顔をくもらせる。
分かっていた。
自分が間違っていることも、ミカのお父さんが俺をとても心配してくれていることも。
それでも自分の考えを根本から覆す気には、どうしてもなれなかった。
俺だって本当は、人に期待したい。
でもそうしたら、自分の考えを覆したら、また酷い目にあってしまう気がした。
「そんなふうに考えちゃダメだ。……そんなふうに考えてたら、君はいつか、壊れてしまう」
壊れる?
「……え、なんすかそれ」
「君は人に期待してないんじゃない。本当は人に期待したいのに、それを我慢してるんだ。……君はミカへの気持ちだって、言うのを我慢してた。そんなに我慢ばかりしてたら、君はいつか壊れてしまう」
その通りだと思った。でも、そう思ったからってあの二人以外を信じることなんてとてもできる気がしなかった。
いやたぶん、できない。