一匹狼くん、 拾いました。弐
「君は結賀くんとミカを信頼してるだけじゃない。
あの二人に依存してるだろ」
また、ドキッと胸を打たれた。
「はは。……全部お見通しなんですね」
確かに依存なのだろう。だって俺は、あの二人以外に友達なんていらないと本気で思っているのだから。別に伊織と廉が嫌いなわけじゃない。あの二人が良い奴なのはよく知っている。特に伊織は結賀の気持ちを誰よりも分かっているし、俺のことを思って、泣いてくれたこともあるし。でも俺は、女子を信頼するのは、やっぱりまだ怖い。
「俳優は人間観察が必要な職業だからね。普通の人よりは、人の心をわかっているつもりだよ」
なるほど。確かに俳優は、自分が経験したこともない役をやることが多いだろうから、人間観察力が求めれらそうだ。
「仁くん、君は何のために、誰のために、パティシエを目指すんだ」
俺の肩に手を当てて、ミカのお父さんは言う。
「え」
「自分がパティシエになったら、親が自分の存在を認めてくれると思ってるから、パティシエを目指すのか」
それは、俺が一番聞きたくない言葉だった。
「ちっ、違う。俺は……母さんに認めてもらうために、パティシエを目指してるわけじゃ……」
違うハズだった。母さんに認めてもらうためなんかじゃないハズだった。そのはずなのに、自分で作ったスイーツを通して誰かを笑顔にするためです!なんて、とてもいえなかった。
なんで。どうしていえないんだ。
俺がパティシエを目指したのは、そんな子供のわがままみたいな理由じゃないはずなのに。
そのはずなのに、どうしても否定できなかった。
「仁くん、その夢が親に認めてもらうための夢なら、そんなものは今すぐ捨てろ。……子供のわがままでなれるほど、パティシエの道は甘くないから。俺は元芸能人で、パティシエとしてまだ半人前だけれど、今まで何人ものパティシエの人に会ってきた。だから、パティシエが子供のわがままでなれるような職業じゃないのを、よく知っている」
「……っ」
ミカのお父さんの手を振り払い、走って厨房を出る。
「「仁くん!!」」
ミカのお父さんとお母さんの声が後ろから聞こえたが、気にしてられなかった。