一匹狼くん、 拾いました。弐
「でも、義母親と話はしたいんだろ?」
「うん。話はしたい」
「なら会いに行かないと。大丈夫だよ。ミカはもう独りじゃないんだから」
俺の頭を撫でて、仁は笑う。
「……うん」
小さな声で、俺は頷いた。
「……俊平」
後ろから優しく声をかけられる。
「楓」
誰かと思って後ろに振り向くと、楓が、俺達三人のすぐそばに来ていた。
「久しぶり」
「ああ。楓、生きてたんだな。俺はてっきり、楓が死んだとばかり……」
「確かにあの頃の私は、死んだのかもしれない」
力のない声で、楓は言う。
「え?」
「ごめんね、俊平。私はたぶん、俊平が知ってる楓じゃない」
どういう意味だ?
「あの日、確かに私は死ななかった。でも、記憶喪失になったの。医者は精神的なショックが原因だっていってた。……たぶん車に轢かれそうになったのが、相当怖かったんだと思う」
「じゃあ、楓は俺のことを、覚えてないのか?」
「うん。孤児院と海の家で働いてるのは、ここで働いたら、思い出せるかと思ったから。露麻さんから私が記憶喪失になったわけを聞いた時に、俊平のことや孤児院のことを教えて貰って、その時に海の家と孤児院で生活すれば、記憶が蘇るんじゃないかと思ったの。まだ思い出せてないけど」
「……そっか。楓は、俺のことを忘れちゃったんだな」
その事実は、重く俺にのしかかった。
楓は悪くない。記憶喪失になったのは、義親父と露麻が原因だ。
あいつらのせいで楓は記憶喪失になって俺のことを忘れてしまったから、会いに来なかったんだ。
あいつらさえ、露麻と義親父さえいなければ、俺は今も楓と岳斗と、笑いあっていたのに。
なんで、どうして、俺の幸せは、あいつらのせいで、こんなにも壊れてしまうんだ。