一匹狼くん、 拾いました。弐
俺に水ぶっかけられて、泣いてたくせに。
ああダメだ。涙腺がゆるむ。
義母さんのことを考えてるだけで、泣きそうになってしまう。
俺は泣きそうなのを悟られないよう、何も言わず、仁と結賀から離れた。
行くとこもないので海の家の方に歩いていたら、スマホがブーブと音を立てた。
ポケットからスマホを取り出すと、露麻から電話が来ていた。
なんで今露麻から電話が来るんだよ。
「はぁ」
露麻が俺に電話をかける時は、決まってろくな用じゃない。
俺は憂鬱な気持ちになりながら、電話に応じた。
「……何」
《あの、俊平様……奥様と、喧嘩でもしました?》
「したけど? 義母さんがどうかしたのか?」
《奥様は昨日体調不良で倒れてしまって、今病院にいます。……どうやら、拒食症らしくて》
「え、義母さんが? ……露麻、俺に渡そうとした七百万を全額使ってでも、義母さんを元気にしろ。これは命令だ。拒否は許さない」
《フフ。……そんなこと言われなくても、ちゃんと守りますよ。今の私の主人は、俊平様と奥様ですから》
とかいって、あの義父親が帰ってきたら、露麻はまた義父親の味方につくんだろうな。
「……守らなかったら、俺、お前とも縁切るから」
《はい。肝に銘じておきます。俊平様は、病院に行かなくていいんですか?》
「……いい。俺が心配してたとは言わないで」
《今のは命令ですか?》
「……別に命令じゃない。ただ、俺が言わないで欲しいだけ」
《どうしてですか?》
あんな喧嘩したくせにまだ義母さんのことが好きで、義母さんのことを心配してるのを悟られたくなかった。
「俺は義母さんと縁を切ろうと思って家を出たんだよ。俺は義母さんには、もう、相当な用がない限りは会わないつもりだ。……それなのに心配してるなんて伝えたらまるで、義母さんのことが好きみたいだろ」
《俊平様はまだ、義母さんのことが好きなんですか……?》
「じゃあ逆に教えてくれ。虐待をされてる時、怪我の治療をしてくれたのは義母さんだけだった。俺と一緒に笑ってご飯を食べてくれたのも、義母さんだけだった。……義父親に言われて飯を抜かれた時に、人目を忍んで、ご飯をくれたこともあった。
義母さんだけが、俺の心の拠り所だった。
それなのに嫌いになんて、なれると思うか?
なぁ教えてくれよ、露麻。俺は一体どうしたら、あいつを嫌いになれるんだ」