一匹狼くん、 拾いました。弐

「引っ張ってくれてた?」

「うん。俺、岳斗がいなかったら、楓に告白できなかった。……虐待のことがあるからって、初恋を胸の奥に閉じ込めてしまいそうだった」

 それは、紛れもない事実で。俺は、楓への恋心を胸の奥に閉じ込めようとしていた。楓が、虐待に巻き込まれないためだけに。

 俺は、楓と岳斗に、虐待を明かさないつもりだった。

 二人にだけは、一生、隠し通すつもりだった。もし言ったら最悪の場合、義父親が楓や岳斗を手にかける可能性があったから。
 
 俺は、岳斗と楓と仲良くなるまでは、学校が終わると、すぐに帰宅していた。

 十七時までに家に帰らないと、義父親か露麻のどちらかから必ず暴力を受けるはめになると決まっていたから。

 無駄に広い俺の家から、学校までの距離はそう遠くない。徒歩だと三十分かかるけれど、電車だと学校から徒歩五分で着く駅から、二駅分電車に乗って、十分歩けば家に着く。

 家に着くのが十七時より前でさえあれば、寄り道をしても別に義父親には怒られない。それでも俺は、岳斗と楓と知り合うまでは、学校が終わったらすぐに家に帰っていた。

 まぁ、十七時を過ぎても過ぎなくても、家に帰ったら決まって暴力を振るわれるのだが。

 ただ基本的に、父さんは俺が早く帰ったら暴力を振るう時間を短くして、遅く帰ったら暴力を振るう時間を長くする傾向があった。

 そんなふうにされたら、早く帰るしかない。

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