一匹狼くん、 拾いました。弐
そばにいて欲しかった。
十七時の門限は、高校一年生にしては、あまりに早い門限だ。
俺がそのことに気づいたのは、楓と岳斗と知り合った日の放課後のことだった。
「カラオケ、何時間とるー?」
三人で学校の近くの駅に向かって歩いている時に、そう楓が言った。
「三時間とか?」
岳斗が自分の隣に横並びで並んでいる俺と楓を見ながら、首を傾げる。
「……俺そんな遊べない」
小声で言って、首を振る。
今は十五時半くらいだから、三時間たったら、十八時半になってしまう。そんな時間に帰るなんて、考えただけで頭が痛くなる。
「え、嘘。ミカの家って門限あんの?」
眉間に皺を寄せて、岳斗はいう。
「……ある。守んないのは無理」
「珍しいね。男の子なのに、門限あるなんて」
男って門限ないもんなのか?
「何時?」
楓が言う。
「十七時」
「え、そんなに早いの? 私の友達、みんな十九時くらいだよ?」
十七時って早いのか。
友達がいないと、こういうのが分からないんだよな。
「十七時じゃ、あと一時間しか一緒にいれねぇじゃん!」
不服そうに、岳斗が叫ぶ。
「絶対に守んないといけねぇの?」
「うん。……俺が早く帰らないと、父さんが絵を描く時間が減るから」
嘘ではない。一応。
「あ、そっか。ミカが絵のモデルやってるんだっけ?」
楓が思い出したみたいに言う。
「そう」
四月頃に校外学習で赴いた美術館に父さんの絵が展示されていたから、同級生には、父親が画家で、俺がモデルをやっていることはつつぬけだった。
「ミカがモデルだと、すごい綺麗な絵が出来そうだよな」
岳斗の何気ない一言が、毒針みたいに心に突き刺さる。
俺はその綺麗な絵のために、一体何回、暴力に耐えているんだろう。
「……………そう、だな。できるかもな」
つい歯切れ悪く言葉を返す。
俺のアホ。ダメだろ、こんな演技じゃ。
虐待のことがバレるだろうが。