一匹狼くん、 拾いました。弐
パクっ。
岳斗が俺の顔のそばにあったクレープを、一口食べた。
「あ、岳斗! 一言言ってから食えよ!」
「別にいいじゃん。俺が奢ったんだから」
口の周りに着いた生クリームを指で拭って、岳斗は笑う。
俺は虐待されてから親からお年玉や小遣いをもらったことがないので、岳斗にクレープを奢ってもらった。
でも、奢ったからって突然食うのは、ちょっとどうなんだろう。
「ほら、食えよ。いちご、好きなんだろ?」
自分のクレープを俺の顔の前にやって、岳斗は笑う。
岳斗の態度を見て、ハッとする。
もしかしたら、岳斗はいちごが好きなのに「岳斗のも食べたいっ!」って言わない俺に気を遣ってくれたのかもしれない。
「……ありがとう、食べる」
岳斗のクレープに口をつけてみると、いちごとチョコレートの風味が口に一気に広がった。
「あたしも岳斗の食べたいー!」
岳斗が楓の口に、クレープを近づける。
「……ハハ、ハハハ」
まさか自分がクレープの食べあいを友達とする日が来るなんて思ってなかったから、つい笑ってしまった。
「え、どうしたミカ?」
岳斗が俺を見て首を傾げる。
「楽しいと、思っただけ」
銀髪の毛先をいじりながら、小さな声でいう。
「これからは毎日、三人で楽しく過ごそうね?」
俺は楓のその言葉に、頷くことが出来なかった。