一匹狼くん、 拾いました。弐
「俺は、聞いても大丈夫か?」
スマホをポケットに戻してから、岳斗は首を傾げる。
「うん。でも俺、怒られるかも」
怒られるどころじゃ、すまない。
「父親に?」
「うん、そう」
鏡を見なくても、自分の顔色がどんどん悪くなっていくのがわかった。
「話したこと黙っとけばいいじゃん」
「……確かにそうだけど、黙ってたのバレたら余計怒られる」
手足が震える。
岳斗が俺の背中を撫でた。
「うっ」
肌を触られたのがいけなかったんだろう。
友達の岳斗が触っているのに、親父に触られた感触が蘇ってきて、吐き気を催す。
「ミカ?」
思わず口を手で覆う。
背中から手が離れたと思ったら、岳斗は急いでブレザーを脱ぎはじめた。
「ここに吐いていいから」
岳斗が俺の目の前に座り込んで、ブレザーを俺の顔の前にやる。
あまりに急だったからビニール袋なんてないんだろう。
「うっ、ゲホッ!!」
友達の制服の上に吐くなんて最悪だ。そう思っても吐き気は治まらなかった。真っ赤ないちごと、アイスクリームが溶けたかのような、薄ピンク色の液体が口から零れる。
「は、これクレープ? なんで今日の朝飯とかじゃないんだよ!」
嘔吐物を見て、岳斗は顔をしかめる。
「あ、朝ご飯、食べてない。食欲なくて」
飯を抜かれたと言う勇気が、俺にはなかった。