一匹狼くん、 拾いました。弐

「朝飯どころか、昨日の夕飯も食べてないだろ!」

 岳斗が大声で突っ込む。

「食べられなかった」

 話したらダメなのに、そんなことを言ってしまう。

 ダメだとわかっていても、心は助けを求めていた。

「……食えなかった?」

 岳斗が眉間に皺を寄せて、俺の顔を覗き込む。

「うっ」

 夕飯の説明をどうしようか考えていたら、また、あの行為のことが頭に過って、吐き気がおしよせてきた。

 ブレザーの上に吐くのが後ろめたくて、口を手で塞いだ。

「ごめん。話は落ち着いたらでいいから。とりあえず今は、吐けるとこまで吐け」

 両手で持っていたブレザーを片手だけで持つようにしてから、岳斗が俺の手をとって、口から離れさせる。

 腕に泥をつけられたような感触が、俺を襲う。何かと思って腕を見ると、岳斗の手が、吐瀉物にまみれていた。

 最悪だ。ブレザーだけじゃなくて、腕まで吐瀉物まみれにさせてしまった。


「が、岳斗、こんなに汚したら」

 これ以上汚すのは申し訳ない。

「いいから吐け!! それで楽になるなら、吐いた方がいい」

 岳斗が俺の腕から手を離して、再びブレザーを両手で持つ。

 吐かなかったら余計心配されるのは目に見えていた。それに、このまま我慢してても、吐き気は収まりそうもない。

 
「ゲホッ、ゲホゲホ!!!」

 俺は吐ける分だけ、岳斗のブレザーにものを吐いた。
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