一匹狼くん、 拾いました。弐

 吐き始めてから15分くらいたったころ、やっと吐き気がなくなった。

「落ち着いたか?」

 吐ききって脱力している俺に岳斗は声をかける。

「うん。ごめん、本当に」

「謝んなくていい。友達が弱ってる時に、面倒見るのは当たり前だし」

「え」

 目を見開いて岳斗をみる。そんなこと、言われたことなかった。

「どうした?」

 俺が戸惑っているのに気づいて、岳斗は首を傾げる。

「友達の面倒見るのって、当たり前なのか?」

「ああ。少なくとも俺や楓の中ではな」


 岳斗は楓が幼なじみだから、楓のこともわかるんだろう。


「じゃあ親は?」

「え?」

「親が子供の面倒を見るのも、当たり前なのか?」

「そうだな。俺と、楓の中では」

 親が子供の面倒を見るのは当たり前?

 じゃあ、俺の父さんもあくまで、『子供の面倒を見ていた』だけなんだろうか。

 面倒を見ていたから、躾といったのだろうか。

 ……違う。俺は、父さんに面倒を見られてなんかない。

 首を振って、心の中で呟く。

 あんな行為が、『面倒を見ること』なわけがない。

「ミカ? どうした?」

「……俺の家は、岳斗や楓の家とは違う。俺は、親に面倒なんか、見られてない」

 誰かに言ってもらいたかった。あんなのは躾でも、教育でも、面倒を見ることでもないって。

「え、それってまさか、育児放棄」

 その言葉を聞いた瞬間、冷静さを失った。

「育児放棄されるなら、育児放棄されたかった!!お、俺はお前みたいに、面倒なんか見られてない!俺は父親に、おっ、おかされ……」

 本当に、犯される一歩手前だった。

 あの父親に犯す気があったのかどうか、俺は知らない。

 でも確かに俺は、犯される寸前まで追い込まれていた。

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