一匹狼くん、 拾いました。弐

 最後まで言いきれなかったけれど、それでも岳斗は俺の様子を見て、おおよそのことを理解したのだろう。

 岳斗は何も言わないで、ただ吐瀉物まみれの手が、俺の体に当たらないように気をつけながら、俺を両腕で抱きしめた。

「……ごめん。俺にはミカのその記憶を消すことも、ミカの気持ちを推し量ることもできない。それなのに友達だなんて、大嘘もいいとこだよな。でもこれだけは言わせてくれ。……父親に何をされていようと、ミカはミカだ。ミカは穢れてなんかねぇよ」

 涙を流しながら、岳斗は綺麗事のような言葉を並べる。

 あんなことされたのに、俺が穢れてないだって?

「嘘だ!俺は無理やりだったのに、同意なんてしてなかったのに、拒否しかしてなかったのに、身体はいやでも反応して、無駄に甲高い声を上げて感じて、どんどん、自分が自分じゃなくなった。俺は汚い」

「それでもミカはミカだ。汚くなんかねぇよ」

「汚いんだよ俺は!!俺は自分が気持ち悪い。自分で自分を殺したいくらいな」

「それなら俺が、絶対にお前を生かす。ミカがいない生活なんて、もう考えらんないんだから」

「俺達昨日知り合ったばっかなのに、なんでそんなこと」

 岳斗は俺と違って人当たりがいいから、俺や楓以外にも沢山の友達がいるはずだ。それなのに、どうして。

「出会った日なんか関係ねぇよ。俺はただ友達の自殺を止めないような薄情な人間になりたくないだけだ」

 岳斗は本当に、薄情にならなかった。俺は、薄情であって欲しかったのに。

 どうせ死ぬなら、居なくなってしまうなら、優しくしないで欲しかった。優しくされたら、忘れられなくなってしまうから。


 神様は無慈悲で、残酷だった。やっと友達ができたと思ったら、それをこれみよがしに奪った。

 ただ岳斗は、命を奪われるその瞬間まで、俺の良き親友であろうとした。
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