一匹狼くん、 拾いました。弐
夢であって欲しかった。
俺が父親に犯されかけた話を岳斗にした日の昼頃、俺は信じられない提案をされた。岳斗が俺と一緒に家に行って、父親に文句を言うと言い出したのだ。
「岳斗、そんなことしたら俺はもっと怒られる」
「俺の前ではお前に怒んないんだろ? だったら朝まで一緒にいてやるよ。これから毎日な」
頭が痛くなる。どうしよう。岳斗の提案はありがたすぎる。でも、夜岳斗が寝てる間に絶対父親になにかされるよな。それに……。
「親にはなんて言うんだよ。一人暮らしじゃないんだろ?」
「楓の友達の家に泊まるって言う。楓の友達っていえば、俺の親は納得する」
「それはそうかもしんねぇけど」
「けどはなしだ。俺はお前と楓が無事で居られるなら、それ以外はどうでもいい」
その言葉を聞いた瞬間、涙が零れた。そして、その日の放課後、俺は本当に岳斗と一緒に家に向かった。
家に向かっている間、俺は岳斗にできる範囲で、虐待のことを話した。
昨日と、今朝された虐待の内容は相変わらず具体的に話せなかったけど、それ以外のことはほとんど話した。
……俺の家の問題は俺の家で解決した方がいいし、岳斗のことは巻き込まないつもりだったけど、俺が感情をむき出しにしたことで、巻き込まないのが難しくなってしまったから。
家に着くと、俺はズボンのベルトにかけてあるキーケースを外した。キーケースにある家の鍵をドアの鍵穴に差しこんで、ドアを開ける。
開けている音が響かないように、ゆっくりとドアを動かしている俺を見て、岳斗は首を傾げる。
「ミカ、なんでそんなゆっくり開けてるんだよ?」
「ばか、騒ぐな!」
「俊平、帰ってきたのか?」
玄関の前にある広い廊下の壁のとこにあるドアから、声がした。
父さんだ。
父さんがダイニングのドアを開けて、廊下に足を踏み入れる。
俺と目が合うと、父さんは思いっきり顔をしかめた。