一匹狼くん、 拾いました。弐
汐美は直ぐに皿とフォークを用意して、俺達にフォンダンショコラを振舞ってくれた。
見た目はただの丸いチョコレートケーキだ。フォークで切ったら、本当に液体状のチョコレートが中から溢れ出した。
「本当に溶けてる!! すご!!」
チョコレートの中に、暖かいチョコレートが入っている!! こういうのってどうやって作るんだ?
「あはは、素直かよ」
俺の反応を見て、仁は満足そうに笑った。
「ミカ、明日商店街行くのは当たり前だけど、江ノ島神社でお参りもするか?」
仁が聞いてくる。
「俺神社行ったことない」
高校受験や中学受験をする前とか、初詣の時に必ず行く場所なのに、俺は今まで行ったことがない。……初詣の時も受験の時も虐待されていたから連れてって貰えなかった。
「……じゃあ行くか。おみくじして、絵馬に願いごと書こうな」
目を丸くした後、仁は笑って言った。
「甘酒も飲もうな。お守りも買おう」
仁の言葉に付け足すように結賀は言う。
「うん。二人ともありがとう」
「はぁ。……本当にミカはいい子だな。あいつが虐待してた理由がマジでわかんねぇ」
ため息をついて、仁は顔を伏せた。
「……たぶん楽しかったんだと思う。俺が泣いたり喚いたりするところを見るのが」
「え、何それ。本当にクソ野郎だね」
緋也が言う。……本当にそうなんだよな。
「……マジで殺してやりたい。いっそもう殺すか」
仁が拳を握りしめる。
「……殺さないで」
俺が首を振ると、仁はさっきよりも深いため息を履いた。
「はーぁ。だからいい子すぎなんだよ。もっと怒れ!」
「そうだぞ。俺らの前では怒ったってなんも言われないんだから、怒りたいなら怒れ」
仁に賛同して、結賀は言う。
「別に怒りたくない。俺はただもう何も奪われたくないだけ」
「大丈夫。俺達といる限りは何も奪われねぇよ。だから離れるな。わかったか?」
俺の手を握って、仁は笑った。
「……うん、ありがとう」
「はぁ。健気すぎて泣けそう」
「アホ。声に出てんだよ」
仁の頭を軽く叩いて、結賀は笑った。