一匹狼くん、 拾いました。弐

「仁、汐美さんに言って水とココア貰ってきた」

 トイレのドアを開けて、結賀は言う。来るのはわかっていたから、鍵は閉めてなかった。

 便器の上に置いていた顔を上にあげて、結賀の方を見る。

「ありがと」

「ん。ほら」

 ココアの入ったコップを離れた所に置くと、結賀は水が入っている方のコップを俺に近づけてくれた。

「そこまでしなくていい」

 顎に手を添えて、結賀は水を飲ませようとした。

「はぁ。俺がしたいんだよ」

 俺が首を振ると、結賀はため息をついた。俺は何も言わず、結賀に身を任せて水を飲ませてもらった。

「なぁ結賀……何で、どうしてミカばかりあんなに辛い目に遭わなきゃいけないんだよっ」

 結賀の胸に顔を埋めて、掠れた声で小さく叫ぶ。

 ミカが起きないようにしないと。

 確かにミカは顔が良い。それは、百人の人がいたら、その全員が声を揃えて良いと言うくらいのものだ。でもそれが、あいつを虐めていい理由なんかには決してならない。

 ならないんだよ絶対!!

 結賀は俺の身体を抱きしめて、背中を撫でた。俺と同じように、結賀は涙を流していた。

 ……義理の父親がミカを嫌いじゃなかっただけまだよかったと考えるべきなのだろうか。


 父親に嫌いだなんて言われていたら、ミカがどうなっていたか分からないから。


 商品だと言いながら、あいつはきっと商品としてなんて今まで一度も見ていなかったのだろう。
 
 だとしたら、アイツが楓を殺そうとしたのも納得が行く。……復縁させるのは危険だ。復縁させたらきっと、脱獄した時、あるいは釈放した時にあいつはまた楓を殺そうとするに違いない。
< 199 / 215 >

この作品をシェア

pagetop