一匹狼くん、 拾いました。弐
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翌日。朝ごはんを食べると、俺達四人はすぐに海の家に行った。
「おはよー俊平」
裏口から海の家に入ったら、母さんに声をかけられた。裏口の鍵は昨日母さんが渡してくれた。
「お、おはよう母さん」
「昨日はちゃんと寝れた?」
「う、うん。……あの、母さん俺これから仁達と江ノ島観光しようとしてて……」
親にお小遣いをねだるのなんて初めてだから緊張して、とても声が小さくなった。
「あ、お小遣い欲しい? わかったわ」
「え、本当に? 貰っていいの?」
「もちろん。ちょっと待っててね」
そう言うと母さんは休憩室がある方に向かって行った。
「おはよー俊平」
母さんを待っていたら裏口のドアが開いて、楓が中に入ってきた。
「あ、楓。おはよう。これからバイト?」
「うん。俊平は?」
「みんなで観光行くつもり」
「そうなんだ、楽しんできてね。ところで蘭さんは?」
「俺にお小遣いくれるって言って、お金取りに行った。多分もう戻ってくると思う」
「そっか。私も俊平とデート行きたいなぁ」
やば、嬉しい。俺今、絶対顔赤い。
「……今度連絡する」
「うん、待ってるね」
頬を赤らめて、楓は頷いた。
「俊平、お待たせ。はい」
母さんが戻ってきて、エプロンのポケットから一万円札を取り出して、俺に渡そうとする。
「え、こ、こんなに要らない」
義親にゴミクズだなんて言われていた俺に、一万円札を貰う価値なんてない。
「……もう。あげたいの。前の家では貰ったことないんでしょ?」
そう言うと、母さんは俺の手の平に一万円札を置いた。
「え、なんで分かって」
「何でって、俊平本当に?って言ってたでしょ。オネダリする時身体震えてたし。そんな態度あまりお願いしたことがない子しかとらないから。……俊平、一緒に暮らすようになったらお小遣いなんて毎月あげるから。友達と好きな所行って、思う存分遊んで好きな物食べなね」
は? 開いた口が塞がらなかった。
「毎月貰っていいものなの?」
お年玉は年に一回貰うものだって知ってたけど、お小遣いはそういうのじゃないのか?
「いいに決まっているでしょ。なんなら、週一でもあげる」
母さんが俺の事を抱きしめて、耳元で囁く。……そんなに貰っていいのか。自分の環境が今までどれだけ変だったのだろうと思った。それと同時に、産まれて初めて普通の家族みたいな扱いをされたかのような感覚がして、胸が暖かくなって涙が溢れた。