一匹狼くん、 拾いました。弐
「……あの人はね、何も元からあんなだったわけじゃないの」
俺は何も言わず、八等分に切り分けたピザをひときれ口に運んだ。
「……俊平に虐待を始める前ね、あの人には親友がいたの」
「……親友?」
「そう。二人は画家同士だったからかとても仲が良くて、絵を二人で並んで書いてることなんかもあったわ。毎日二人でくだらないこと話したり、だべったりして。本当に親友さんといた時のあの人は幸せの絶頂って感じだったわ。そんな風に仲良くすごしてたある日、二人は画商に出会ったの。画商はあの人の絵だけに興味を持って、あの人の絵だけを高く売ろうと考えた。……簡単に言ってしまえば、親友さんが書く絵は売れない絵だと判断されてしまったの」
よくある話だ。父さんには才能があって、親友には才能がなかった。
あるいは、画商は父さんの絵は好きになったが、親友の絵は全く好きにならなかったと。
仕方がないのだろう。この世は良くも悪くも実力主義だ。
「……それでね、ただでさえ絵がなかなか売れないのに画商にも拾えて貰えなかった親友さんは、どうにかして手っ取り早くお金を作ろうと考えて、一時の気の迷いか、わざとなのかは定かではないけれど、してはいけないことをしてしまったの」
「……してはいけないこと?」
「ええ。盗んだのよ、お父さんの絵を」
ぎょっとして、俺は思わず目を見開いた。
「……そしてその盗んだ絵を、画商に見せたの。自分が描いた絵だと言い張って。……それから画商はあの人のところに一切来なくなって、あの人はひもじい生活をするのを余儀なくされたわ。……それで、俊平に目をつけた」