一匹狼くん、 拾いました。弐
「盗まれたなら取り返せばいいんじゃないのか」
首を振って、母さんは言う。
「それが、盗んでから3日もしないうちに買取り手が見つかってしまったから、取り返すのは無理になっちゃってね。サインとかがかれてなかったから、自分が描いた証拠もないし、親友さんからならまだしも、買取り手から取り返すのはとてもできなくてね」
「それが何で俺に虐待をするのと関係あんだよ」
「……あの人の絵がきっかけになったのか、才能が開花したのかわからないけど、親友さんは画商の協力もあって盗んだあの人の絵や、自分が描いた絵が一気に高く売れるようになって。その分、あの人は売れなくなってしまったの。画商も絵もとられちゃったわけだしね。 ……それで、風景画を描いていたあの人はそれをやめて、人物画に手を出したの。そしてそのモデルを、俊平にした」
「だから、何で俺なんだよ!俺は子供で、体のいい道具なんかじゃないのに」
髪を掻きむしりながら、俺は叫ぶ。
「そうね。きっとあの人は、どうにかして親友さんを見返したくて、あるいは過ちを後悔して欲しくて、必死になってしまったんだと思うわ。
俊平を道具のように扱ってしまうくらい」
「もういい」
俺は財布から千円札を出してテーブルに置くと、椅子から立ち上がって店を出ようとした。
だか、母さんに手を掴まれた。