一匹狼くん、 拾いました。弐
崩壊の後。
家に帰ると、俺はタンスを開け、狼の耳がついたパーカーと普通のパーカーを二、三着と、ズボンを二、三着。あと制服をスクバに突っこんだ。
それからさらに下着と筆記用具と宿題と財布を突っ込んで、スクバのチャックを閉めた。
忘れ物がないか見るために顔を上げると、タンスの上にあった写真たてが目に入った。
……入っているのは、五歳くらいの俺と両親だ。顔を整形されて虐待されるようになる前に撮った写真。
三人とも目を細くして笑っている。
「……」
俺はスクバに写真たてを入れると、玄関に行った。
靴を履いてから、後ろを向いて古びた家を見回す。
俺はこの家が嫌いだ。無駄に古ぼけた外観と内装を見るだけで、気分が悪くなるから。自分の環境が変なんだって、いやでも思い知るから。……やっと出ていける。そう思うのに、全然心が満たされない。嬉しくない。まぁ当然か。母さんにも裏切られたんだから。……きっと母さんに『お金が入ったから、大きな家に引っ越そう』とか言われたら、心が満たされたんだろうな。
もうそんなこと、二度と言われないと確定してしまったが。
母さんのことが好きだった。虐待されてた時、母さんだけが俺の拠り所だった。……母さんがいたから、俺は死なずに済んだ。母さんは、俺の味方だと思っていた。それなのに今日、母さんは父さんを庇った。
『あの人はね、なにも元からあんなだったわけじゃないの』
母さんが言った言葉が、頭をよぎった。
元から悪い人ではなかったから、なんだというのか。……父さんのことを理解しろって?
あんな横暴なやつなのに? 結局、俺は父さんにも母さんにも愛されてなかったんだな。
涙が頬を伝う。俺は涙を拭うと、泣いてるのが誰かにバレないよう、フードを深く被って、駐車場に向かった。
わざと家の鍵は閉めなかった。へそくりなんてない、金のない家だ。泥棒なんて入るわけない。