一匹狼くん、 拾いました。弐
煙草を吸ってから五分くらいした頃、葵がベランダにきた。
「ほら」
ノンアルコールの缶を俺の頬に当てて、葵は言う。
「……わっ、冷た」
受け取ろうとすると、葵は缶をもう片方の手に持ち替えて、俺の手を避けた。
「銀、ここに煙草捨てろ。じゃないと渡さねぇ」
そう言って、葵はズボンのポケットから携帯灰皿を取りだした。
「俊平」
何も言わないでいると、不意に名前を呼ばれた。
「はぁっ、はぁっ」
親父が頭によぎって、心臓の鼓動が速くなる。呼吸が乱れる。
俺は震えながら、吸っていた煙草を灰皿に落とし、葵に煙草の箱を渡した。葵が煙草の箱を受け取ってポケットに入れる。
「銀」
葵はあだ名を言ってから指を鳴らし、俺を正気に戻した。
「……葵は心配症なんだよ」
顔をしかめて俺はぼやく。
「お前が自分のこと大事にしてなさすぎなんだよ」
眉間に皺を寄せてそういってから、葵は俺に缶を手渡す。
「……大事にしてても意味なんてないし」
缶を受け取ると、俺は顔を伏せて言った。
「そんなわけないだろ」
「あるだろ!!俺、もうとっくにボロボロに腐り果ててんだぞ? ……これ以上ひどくなったところで、大して変わんねぇよ」
葵は目を見開く。
「お前は、腐ってない! 確かに体には虐待の跡があるだろうけど、俺達はそれを汚いとも、腐った体だとも全然思ってねぇよ!」
「だからなんだよ。お前や華龍がそう思ってることくらい知ってんだよ。それでも、風呂とかで自分の体を見るたびに嫌になる。この体は呪われてる。生まれてまもなく整形されて、いたぶられて。……綺麗だなんて一生思えない」