一匹狼くん、 拾いました。弐
「凪も帰ったことだし、いつまでもそこに立ってないで、座れよ。飲み物は缶酎ハイでいいか? まぁそうは言っても、ノンアルだけど」
カウンターにいる葵がテーブルを挟む形で自分の目の前に置かれた椅子を指さす。
「……ああ、酎ハイでいい」
仁は冷静な様子で頷いて、カウンターの椅子に腰をかけた。
「銀もいいな?」
「……うん」
俺は仁の隣の椅子に座ってから、小さな声で頷いた。
葵がカウンターの隣にあるキッチンのとこに置かれた冷凍庫を開けて、そこからいちご味の缶酎ハイをとってから、冷凍庫を閉める。
「はい。仁はいちごな」
葵はいちごの缶酎ハイをテーブルの上に置いて言った。
「ん、サンキュ」
仁は缶酎ハイを手にとると、フタを親指の爪で開けた。プッシュ!なんて音がして炭酸の泡が弾けて、消えた。
「あま」
仁は缶酎ハイを一口飲んで、満足そうに呟いた。
「銀は何がいい? イチゴの他にはキウイと、グレープフルーツとオレンジとブドウがあるけど」
仁に味の種類を教えなかった理由がわかった。
いちご以外は酸っぱい系だからだ。甘党の仁がこのラインナップでいちご以外を選ぶ訳がない。
「……グレープフルーツ」
「ん」
俺が素っ気なく言うと、葵は冷凍庫を開け、グレープフルーツ味の缶酎ハイと、キウイの缶酎ハイを手に取ってから、冷凍庫を閉めた。
「はい」
葵は俺が座っている椅子の前にあるカウンターのテーブルの上にグレープフルーツ味の缶酎ハイを置いてから、キウイの缶酎ハイのフタを開けた。
「あー」
葵が缶酎ハイを一口飲んで、声を上げる。とてもリラックスしているようだ。
俺は缶酎ハイを飲む気になれなくて、フタを開けたが、口をつけはしなかった。