一匹狼くん、 拾いました。弐

次に葵と会ったのは、岳斗の葬式場だった。


俺は岳斗の葬式に出る勇気はなかったけど、身体にムチをうって行った。

行かないと、俺が楓の葬式に出なかった時みたいに、岳斗が腹を立てると思ったから。

「岳斗……っ」

遺影を見ていたら、涙がこぼれおちた。

神様なんて居ない。

そんなものがいたらきっと、岳斗は死んでいない。……楓だって、そうだ。

別に、幸せになりたいとかそんなことは思わない。……幸せになんかなれなくてもいいから、俺はただ普通に毎日のように楓や岳斗と笑いあって生きていきたかった。

ただそれだけだったのに。

――バシャッ!

「あんた、なんで自殺なんかしようとしたのよ!」

後ろから、冷たい紅茶をぶっかけられた。

ぎょっとして後ろに振り向くと、目の前に岳斗のクラスメイトがいた。そいつは、岳斗が告られたって言ってた女だった。

名前は確か、金城望(カネシロノゾミ)

岳斗はチャラくて、人当たりが良くて、男女問わず人気があった。それなのに俺の自殺を止めようとして、死んでしまった。

「……金城」

「岳斗を返してよ!」

金城が手に持っていた空の紅茶のペットボトルを俺の顔に向かって投げてくる。

ペットボトルは俺の頬をかすって、床に落ちた。

身体にかかった紅茶が冷たくて、金城の涙が、見ているのが嫌になるくらい綺麗で。

俺は心臓を鷲掴みされたような気分になった。

「望、落ち着け」

望の隣にいた男が言う。

「うるっさい! こいつが死のうとしなかったら、岳斗は死ななかったのよ!」

望が足音を立てて俺に近づいてきて、頬を叩こうとしてくる。

俺は望から目を背けた。

――パシッ。

葵が俺の前に来て、望が振りかざしてた腕を掴んだ。

「こいつを殴っても岳斗は帰ってこねぇよ。それどころか岳斗はお前がこいつを殴ったって知ったら、お前に失望するだろうな」

「うっ、うあああん」

望は赤ん坊のように泣き喚いた。



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