一匹狼くん、 拾いました。弐

 死んだことにしろだって……?

「楓さんには、もう二度と俊平様と会わないようお願いしました。約束を破れば、俊平さんが酷い目に遭うと言って。……葬式では、代わりに自殺した人間の死体を使いました。損傷が酷い方が良かったので、自ら車に轢かれに行った人間を探しに行くのは困難を極めましたが。……楓さんの親には、事前に死んでいないのをお伝えし、大金を支払って真実を誰にも言わないようお願いしました」

 それなら、葵が知らなかったのは親が黙ってたからってことか……?

「……じゃあ、あの墓はなんなんだよ」

「……死ぬ前にお墓を作ることは可能ですので。つまりあのお墓には、誰も眠っておりません」

 俺は露麻の頬を殴った。

「……今の全部嘘だって言えよ。なぁ、俺が楓が死んでどんだけ引き摺ったと思ってる? 二回も死のうとしたんだぞ? 岳斗だって、本当は死んでないって知ってたら今も生きてただろうな?
親父の命令だからって、さすがに限度があるだろ!頭おかしいんじゃないか!今更こんな真実教えるくらいなら、岳斗返せよ!なぁっ!!」


 露麻の胸ぐらを掴んで、叫び散らす。

 ふざけるな。ふざけるなふざけるな。なんで今更こんなこと知る羽目になる。こんなの冗談じゃないんだよ。

「申し訳ありません。ですが、この件に関しては、私も命令された際、反対致しました。ですが、旦那様はやらなかったら私を首にするとおっしゃいまして。執事は信頼の元に成り立つ仕事です。もし首にされた際に、旦那様が会社に私の不満を言いでもしたら、私の評判はガタ落ちいたします。それだけは阻止したいと「……ハッ、ゴミ以下の俺が愛した人間の命より、自分の仕事の安定の方がよっぽど大事だってか?本当に、お前も親父も狂ってるな」

 自虐するみたいに言う。

 ……どこまで俺をコケにすれば気が済むんだよ。

 俺は露麻の胸ぐらから手を離し、走って孤児院を後にした。


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