一匹狼くん、 拾いました。弐

 

「仁、誕生日おめでとう!!」

 母さんは俺が誕生日の時、手作りのケーキにロウソクを歳の数だけさして、歌を歌ってきちんとお祝いしてくれた。

 中学一年生までは。

 ……再婚した人との子供ができるまでは。


 俺の母親は嘘つきで、裏切りもんだ。さんざん大好きだって、愛してるって言ってくれたくせに、子供が出来た途端、俺を無視した。


 俺の母親は料理上手で、再婚した人との子供を妊娠するまでは料理の先生をやっていた。

 そんな母親が作る料理はどれも絶品で、最高だったのを俺はよく覚えている。

 母親は料理のなかでもスイーツが大得意で、俺が誕生日の日は、毎年のように腕によりをかけてケーキを作ってくれた。そのケーキがまた変わっていて、キエフケーキというソ連のケーキで。 中にはヘーゼルナッツとチョコレートとバタークリームなんかできたメレンゲが入ってて、とても甘かった記憶がある。母親はなんでも料理のためにロシアに留学をして、そのケーキを作るようになったらしい。

 俺の甘党は母親のそんな料理のせいだといっても過言ではない。

 中一の時、無知で馬鹿な俺は、パティシエを志していた。母親が作るスイーツが大好きで、『いつかお母さんみたいに、食べた人が元気になるようなスイーツを作るんだ!』なんていっていたのをよく覚えている。

 俺はその夢に、母親に無視をされた途端、蓋をした。

 本当は製菓のことを学べる高校に入学をしたかったくせに。

 模試もA判定だったくせに、わざとすべりどめの桐谷だけに志願書を出して、夢に蓋をした。


 ――自分のことを無視するような母親に、高い学費を払わせるのだけはごめんだったから。


 パティシエコースがある高校は、普通の都立の高校とやっていることが違うから、その分学費も高くなる。
 俺は自分のことを大事にしてくれない母親に、そんな高い学費払わせたくなかった。そんなの俺のプライドが許さなかった。どうせなら、『パティシエになるの? がんばってね!』なんていってくれるような母親に払って欲しかった。

 本当にパティシエをめざしているなら、そんなプライドはかなぐり捨てるべきだった。

 あるいは母親と無理にでも話をして本気でパティシエをめざしていることを伝えて、応援してって言えばよかったのかもしれない。

 俺がそうしなかったのは、母親に期待をかけるのが怖かったからだ。

 常に自分のことを無視する母親が夢を応援してくれるなんて思えなくて。
 

 夢の話をした途端、突き放されるんじゃないかとしか思えなかったから。


 俺は母親に応援されないのを気にしないで学校に通えるほど強くもなければ母親を説得することもできなくて。
 無理矢理自分の夢に蓋をして、パティシエコースのある高校に入学するのを諦めた。

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