一匹狼くん、 拾いました。弐
「……え? 仁は坊主だったのか?」
「…………そう。マッシュは、母親と一緒に美容院に行ってしてもらった髪型なんだよ。メガネはダテ。母親はマッシュでメガネの俺を見て『とってもかっこいい』って言ってくれた。それが理由で、俺はずっと髪型をマッシュにしてメガネをかけてた。……でも、母親から無視をされるようになって。俺はその褒められた記憶をかき消すためだけに髪を切って、坊主になった。そんで、メガネも壊した。……それからここまで伸ばすのには一年かかった」
「……仁」
なんて声をかければいいのか、全然わからなかった。
「ミカ、もう一回右にスライドしてみ」
「え? あ」
言う通りにしてみると、スマホに黒髪が肩まで伸びてて、前髪で片目を隠している仁が表示された。制服のボタンが第二ボタンまで外されてて、ネクタイもしていない。
「それが中三の時の俺。この写真なら俺だってわかるだろ?」
「うん、分かる。……すごいな」
「なにが」
「……俺は、そこまで反抗できなかったから。この髪も反抗心で染めたものじゃなくて、親父に染められたものだし。……『白髪があるならいっそ銀髪にしてやるよ。その方が絵を描く時に髪が映えるからな』って言われて」
「……別に俺も大した反抗はしてねぇよ。母親を怒鳴れなかったし。……まぁ、その分髪切ったり染めたりはしたけど」
「それができただけですげぇよ。……俺は親父の言いなりにしかなれなかった」
仁が俺にデコピンをする。
「いたっ?」
「自分のこと卑下しすぎ。ミカの虐待は状況が状況だろ。ミカは俺よりもたくさん酷いことされたじゃん。心が死んじゃうくらい。だから気にしなくていいんだよ!反抗できなかったことなんて」
「……うん」
俺は力のない声で頷いた。