一匹狼くん、 拾いました。弐

「え、岳斗のなのか?」

「うん。……これ、岳斗が自殺しようとした俺を追いかけて屋上まで来た時に持ってたヤツなんだ。屋上から落ちる岳斗を追って慌ててエレベーターに行ったら、近くに落ちてた」

「岳斗のだって確信はあんのか?」

「……ああ、ある。岳斗、楓が死んでからこれと全く同じ銘柄の煙草をよく吸ってたから」

「そっか。もしかして、ミカが煙草吸い始めたのってそれが原因? その銘柄、ミカが吸ってんのと同じだよな?」

「ああ、うん。岳斗が吸ってたのが影響してないって言ったら嘘になるかな。岳斗、楓のことがあってから急に煙草吸うようになってさ」

「……そっか」

 仁が目尻を下げて、悲しそうな顔をする。

「……本当はこの煙草、岳斗の親に渡すべきなんだよな。形見だから。でも、どうしても渡す気になれない。煙草吸ってたの知ったら岳斗の親が悲しむんじゃないのかとか、(てい)の良い言い訳ばっか作って、渡さないようにしてる」


 この煙草は、一種の精神安定剤みたいなもので。俺はこれを持ってないと、生きてる心地がしない。寝る時は必ずと言っていいほど首にかけているし、学校にいる時はスクバのチャック付きのポケットの中に必ず入っている。スクバの中に入れていないと、不安になる。ストラップにして首にかけてないと、ちゃんと寝付けない。その様子は傍から見れば異常で、常軌を逸しているのだろう。それでも俺は、これがないと生きてる心地がしない。 

「別にいいんじゃねぇの、それでも」

「え?」

「だって、形見っていうのは大事な人に持って貰うもんだろ。岳斗からすれば、両親もお前もすげー大事なヤツだし、そこに大した違いなんてないだろ」

 仁が俺の頭を撫でて、笑って言う。

 嗚呼。本当になんでこいつは、俺の考えをこともなげに肯定してくれるんだろう。

「……そうだといいな」

「そうだよ」

 仁は当然だとでも言わんばかりに笑った。

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