一匹狼くん、 拾いました。弐

「あ、バレた?」

 ニヤニヤと結賀は笑う。

「バレたじゃねぇよ!!廉みたいなことすんな!」

 仁は結賀を睨みつけたまま、不満そうに叫んだ。その後、仁は持っていたマグカップをトレイの上に置いてから、ココアが入っているであろうマグカップを手に取って一口飲んだ。

「美味。やっぱゴディ最高」

 一瞬で機嫌が治った。
 やっぱり、そっちがココアだったのか。しかもゴディの。あれ、でもなんで仁はそれに気づいたんだ? ココアとコーヒーの違いだけを見分けるならまだしも、見た目に大した違いもないハズなのにメーカーまで当てたなんて、変じゃないか?

 ――まさか。

「え、仁、もしかして匂いでどこのココアかわかったのか??」

 俺は思わず目を見開いて尋ねた。

「……そりゃまぁ、パティシエ目指してたからな。それくらいはな」

 ――もったいないと思ってしまった、そんなすごい鼻があるのに夢を捨てたなんて。

「宝の持ち腐れだよなー。パティシエになるために作られたのかってくらいいい鼻を持ってるのに、夢を捨てたなんて」

 そういうと、結賀はトレイを窓のそばの床に置いてから、コーヒーが入っているマグカップを手に取って、一口飲んだ。

「うるせえ」

 仁の声は乱暴な言葉とは裏腹に、とても小さくて弱々しかった。

 俺は仁のそんな態度に複雑な想いが込められている気がした。
 諦めたくなかったのに諦めた夢。自分の夢を応援してくれそうもなかった母親。そんな母親に金を払わせるのだけは嫌だというプライド。仁はきっと沢山沢山葛藤して、夢を捨てようと考えたんだろうな。

 ――でも、俺は。

「仁」

「ん?」

「俺、仁が作ったスイーツ食べてみたい」

 まだ少しでも未練があるなら、作れば楽になるんじゃないかと思った。それに、俺は純粋に仁が作ったスイーツに興味があった。

「……………………気が向いたらな」

 返ってきた返事は間がすごい長かったし、声もめっちゃ小さかった。

「仁、それは一生気が向かない奴の返事だぞ」

「……だって」

 結賀は仁の真後ろに行って、仁の青髪を撫でた。

「仁、俺は、その……仁が作る料理ならどんなものでも食べてみたいと思うし、仁の夢も応援したいと思ってる」

 俺は隣にいる仁を見ながら、頬をかいて言った。

「ミカ」

 仁は目を丸くして俺を見た。どうやら、俺の言葉を聞いてびっくりしたみたいだ。

「ミカがそんなことをいうなんて、明日は雪が降るんじゃないか?」

 結賀は笑いながら、随分と失礼なことをいってのけた。

 え。

「結賀ひど。……俺、頑張ったのに」

 孤立主義だった俺がこんなことを言うのなんて確かに変かもしんねぇけど、いくらなんでも笑うことないだろ。

「はは、悪い悪い。まさかミカの口からそんな言葉が出るなんて思ってもみなかったからよ。……まぁでも、そうだな。俺もミカと同じだよ、仁。ついでにいうと、華龍の残りの奴らもみんなそう」

「……ああ、ありがとうミカ、結賀」

 仁は笑って頷いた。
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